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青森地方裁判所 昭和29年(行)70号 判決

原告 清水喜一

被告 青森県知事

主文

被告が八戸市大字鮫町字金屎三五番二号山林三町二反四畝のうち一町九反二畝二〇歩について昭和二七年七月八日附青森県告示第四五六号をもつて公告してなした未墾地買収処分は無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一請求の趣旨

主文と同旨の判決を求める。

第二請求の原因

(一)  八戸市大字鮫町字金屎三五番二号山林三町二反四畝は、もと原告の祖父清水惣次郎の所有であつたが、昭和一七年一二月三一日同人の死亡により原告が家督を相続してその所有権を取得し現在にいたつているものである。

(二)  訴外青森県農地委員会は、昭和二六年一月三〇日右山林が訴外清水兼吉の所有に属するとしてそのうち二町二反八畝につき自作農創特別設措置法第三一条の規定に基き買収の時期を昭和二六年三月二日とする未墾地買収計画を樹立し、同年二月二日公告し、同日から二〇日間関係書類を縦覧に供した。

(三)  右買収計画に対しては、清水兼吉において同年二月一四日訴外委員会に対し異議の申立をしたところ、同委員会は、同年三月二四日附決定書により右二町二反八畝のうち三反五畝一〇歩については異議を認容したが、残りの一町九反二畝二〇歩については異議は相立たない旨決定した。そこで、清水兼吉は、同年四月四日更に被告知事に訴願したところ、同年七月一七日附で右訴願は相立たない旨の裁決があつた。

(四)  その後、訴外委員会は、右買収計画に定める買収の時期を昭和二六年一一月一日と変更し、被告知事において同日附清水兼吉あての青森なNo.二〇の二買収令書を発行し、これを同人に交付しようとしたが拒否されたとして昭和二七年七月八日附青森県報第三八九六号に登載した青森県告示第四五六号をもつて公告し、右一町九反二畝二〇歩に対する買収処分をした。

(五)  しかしながら、右買収処分は以下述べるとおりの理由によつて無効である。

(1)  すでに述べたように、本件土地は、原告の所有に属するものであるにかかわらず、本件買収計画および買収処分においては、これを訴外清水兼吉の所有としているのであつて、所有者の認定をあやまつているといわなければならない。

(2)  被告は、買収令書を交付しようとしたが拒否されたとして交付にかわる公告により本件買収処分をしたのであるが、原告においてはもとより訴外清水兼吉においても買収令書の送達を受けたことがないので従つてその受領を拒否するはずもない。被告は、公告をもつて交付にかえることができる場合にあたらないにもかかわらず公告をしたものである。

(3)  本件買収処分は、三町二反四畝の面積を有する一筆の山林の一部たる一町九反二畝二〇歩についてなされたものであるこのような場合には、買収令書において被買収地の範囲を明確にするべきであるにもかかわらず、本件買収処分においてはそのような処置がとられていない。

(4)  原告は、本件被買収地を家畜の飼育のため採草の用に供しているもので、自作農創設特別措置法にいう牧野である。そして牧野を未墾地買収の対象とすることはゆるされないといわなければならない。

以上の四点は、いずれも本件買収処分における明白かつ重大なかしであるから、右買収処分は無効であるといわざるをえない。

(六)  よつて、本件買収処分が無効であることの確認を求める。

第三被告の答弁および主張

(一)  「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。

(二)  原告主張事実中(一)の事実は認める。(二)ないし(四)の事実中訴外農地委員会が、本件山林の所有者を清水兼吉であるとして本件買収計画を樹立したとの点は否認するが、その余の事実は認める。

(三)  本件買収処分には何等違法の点はない。

(1)  訴外青森県農地委員会が、本件買収計画を樹立するに当つては、被買収地の所有者としては、土地台帳に基き原告の先代清水惣次郎を表示したものである。もつとも、買収計画書においては、右惣次郎名下(現兼吉)と記載してあるが、これは原告が東京に居住していて不在であり継父である清水兼吉が本件山林の管理をしているので管理人たる趣旨でつけ加えたのである。(現に、本件買収計画に対しては、清水兼吉が原告に代つて異議、訴願の手続をとつている。)そして土地台帳の記載に基き原告先代に対し買収の手続をすすめても、その効果は原告に及ぶものでそのために買収処分が無効となるものではないと考える。

(2)  被告は本件買収令書を名あて人である清水兼吉に交付しようとしたがその受領を拒絶されたので、交付にかえて公告したもので、その間何らの違法がない。

(3)  本件買収処分が一筆の土地の一部に対してなされたものであることは、原告主張のとおりであるが、買収の範囲は、買収計画書添付図面、異議に対する決定書添付図面および現地の状況によりきわめて明確であるから、何らの違法がない。

(4)  本件被買収地は、牧野ではない。

(四)  以上のとおりであるから、本訴請求は失当である。

第四証拠〈省略〉

理由

訴外青森県農地委員会が、昭和二六年一月三〇日八戸市大字鮫町字金屎三五番二号山林三町二反四畝のうち二町二反八畝につき自作農創設特別措置法第三一条の規定に基き買収の時期を昭和二六年三月二日とする未墾地買収計画を樹立し、同年二月二日公告し、同日から二〇日間関係書類を縦覧に供したこと、右買収計画に対し清水兼吉において同年二月十四日訴外委員会に対し異議の申立をしたところ、同委員会は、同年三月二四日附で右二町二反八畝のうち三反五畝一〇歩については異議を認容し、残りの一町九反二畝二〇歩については異議は相立たない旨の決定をしたこと、そこで、清水兼吉は、同年四月四日更に被告知事に訴願したところ、同年七月一七日附で右訴願は相立たない旨の裁決があつたことは、その後訴外委員会は右買収計画に定める買収の時期を昭和二六年一一月一日と変更し被告知事において同日附清水兼吉あての青森なNo.二〇の二買収令書を発行し、これが受領を拒否されたとして、同人に対する令書の交付に代え、昭和二七年七月八日附青森県報第三八九六号に登載した青森県告示第四五六号をもつて公告し、前記一町九反二畝二〇歩に対する買収処分をしたこと、以上の各事実は当事者間に争がない。

そこで原告主張の無効原因のうち所有者を誤つた買収処分であるとの点について考察する。本件土地がもと原告の祖父清水惣次郎の所有であつたが、昭和一七年一二月三一日同人の死亡により原告が家督を相続してその所有権を取得したことは当事者間に争がない。してみると前記のように所有者でない清水兼吉に対し同人宛の買収令書を交付せんとし、又その交付に代る公告によつてなした本件買収処分にかしがあることは明かである。被告は右買収令書および公告において清水兼吉を宛名にしたのは本件土地の管理人という趣旨で同人を表示したものであると主張するが買収処分は買収令書に基いてなされるものであるところ成立に争のない甲第一号証の一(買収計画書写)には本件土地の所有者として「清水惣次郎(現兼吉)」と記載されているところからみれば訴外県農地委員会においては計画樹立当時清水惣次郎がすでに死亡した事実を知つており、ただ清水兼吉をもつてその相続人であり、所有者であると誤認し、被告の買収処分においても右買収計画に基き右訴外人を以て買収処分の相手方としたものとみるのが素直な見方であろう。仮に真実管理人の趣旨で表示したものとしても買収令書又はこれに代る公告に所有者を表示せずして管理人を表示するなどは法の認めないところであるばかりでなく、未墾地買収は対象土地につき処分権(所有権)を有するものに向けられるべき行政処分であるから単なる管理権を有するにすぎない管理人に対し買収令書を交付し、もしくはその交付に代る公告をしても、所有者に対する買収処分としてこれに効力が及ぶ理がない。被告の右主張はいずれにせよ理由がない。

しかして右のように本件土地の前所有者惣次郎がすでに死亡していたことを知るにおいては原告が前記認定の如く家督相続をしてこれを承継取得し、惣次郎の娘(原告の母)きよの婿養子たる兼吉が相続取得すべき関係にないこと戸籍簿上(成立に争のない甲第四、五号証)なんら紛らう余地もなく極めて明瞭である。

してみると所有者を誤認し、所有者でないものに対してなした本件買収処分は明白且つ重大なかしがあるから、その効力を生ずるに由ないものといわなければならない。尤も兼吉は訴外県農地委員会の樹立した買収計画につき異議及び訴願の申立をしたこと前記のとおりであるけれども右は兼吉が原告の意を承けてこれをなし、或は原告が、兼吉がそうすることを容認していたというような証左もなく、むしろ成立に争のない甲第一二号証と証人清水金太郎の証言によると原告は昭和二四年頃から八戸市大字鮫町の実家を離れて東京都下に移住していたこと、ために原告としては本件買収処分のあつた当時その事実を知る由もなかつたことが窺われるのであるから兼吉が右のように異議、訴願をしたという事実があつても本件買収処分の効力に関する前示判定を動かすことはできない。

されば本件買収処分の無効確認を求める原告の本訴請求はその余の争点を判断するまでもなく理由があるのでこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 飯沢源助 福田健次 中園勝人)

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